ドローンから衛星へ―場所を選ばない汎用性が支える花巻市の農政DX。行政デジタル化の最前線とは
本記事は、サグリ株式会社が2025年10月30日にオンライン開催した「農業分野における衛星データ活用セミナー」で紹介された、岩手県花巻市の作付け調査DX事例をレポートします。
花巻市は、空港を抱える地理的制約によりドローンが飛行できない「飛行禁止区域」の課題を抱えていましたが、衛星データとAIを活用したアプリケーション「デタバ」を導入し、作付け調査の効率化に取り組んでいます。
本レポートでは、導入に至るまでの経緯、運用の実際、そして今後の展望をまとめます。

この記事のポイント
- 花巻市農業推進協議会が、作付け調査の人手不足と日程調整負担を課題に認識
- 空港半径6kmの飛行禁止区域により、ドローン調査が実施困難
- 衛星データ×AIアプリ「デタバ」を導入し、省力化に向けた試行を開始
- 隣接する北上市と連携し、情報共有しながら運用を推進
- 現場の職員負担を軽減しつつ、今後は、AI判定と現地確認について整理を予定
- 導入予算は推進事務費で対応し、一般会計からの支出はなし

話し手:花巻市農業推進協議会 幹事長 髙橋 新也 氏
花巻市は岩手県の内陸部に位置し、農地面積は約12,000ヘクタール(ha)に及びます。
広大な農地を、限られた職員で作付けの確認をしなければならず、「人手不足」「調査日程の確保」「確認作業のばらつき」が慢性的な課題となっていました。
作付け調査は毎年行われ、調査員は現地で作付け状況を確認し、台帳や地図に記録します。
「地図上の一筆ごとに訪問して確認する作業を想像してほしい。地形も作物も多様で、精度を維持するのは本当に大変です」花巻市農業推進協議会の髙橋氏は語ります。
また、地域全体の高齢化による調査員の不足、デジタル化への不安も課題でした。こうした状況が、業務の省力化に向けたデジタル活用への関心を高める契機になりました。
対策①:ドローンでの作付け確認に挑戦——しかし“飛行禁止区域”の壁
令和4年(2022年)、花巻市はドローンを用いた作付け調査の実証を開始しました。
少人数でも広域をカバーできる可能性が期待されましたが、実際には大きな制約がありました。
いわて花巻空港を中心とした半径6km圏が飛行禁止区域に指定されており、調査対象農地の多くがその範囲に含まれていたため、実質的にはドローンによる調査が不可能な農地が多数存在したのです。
また、ドローンを飛ばすためには、対象農地の地図データを作成するための”紐付け作業”を実施する必要があり、事前準備に大きな負荷と膨大な時間を要しました。
「紐付け作業が終わらないと飛ばせないとのことで、なんとか地図データを仕上げたが、飛行スケジュールにも左右され、毎年こなすには労力的に厳しい作業だった」と髙橋氏は語ります。
こうした事前準備に加えて、撮影した画像だけでは判断できないケースも多かったため、ドローンの本格的な導入には踏み切れませんでした。
対策②:衛星×AIで作付け調査をデジタル化—「デタバ」導入の決断
ドローンの限界を踏まえ、花巻市が次に注目したのが衛星データとAIの組み合わせでした。複数の民間ツールを比較検討した結果、サグリ株式会社の「デタバ」が自治体業務の要件(操作性・予算・サポート体制)を最も満たしていました。
デタバの契約においては、必要なデータを提供するだけで準備が進み、あの大変だった紐付け作業もサグリ社側でやってもらえます。
導入検討の際には、担当職員がオンライン研修で実際の解析画面を確認し、データが地図上でどのように可視化されるかを体験しました。「衛星画像が自分たちの圃場と重なって見えた瞬間、“これなら現地に行かなくても分かる”という実感がありました」と髙橋氏は語ります。
サグリ社側も、質問を受けるだけでなく、準備作業を軽減する工夫や導入後の具体的な運用についての提案を行いました。
こういった双方向の調整プロセスが、現場導入のハードルを大きく下げることになりました。
導入判断を支えた“隣接自治体との連携”
花巻市の導入は、単独の判断ではありませんでした。隣接する北上市と課題を共有し、情報交換を重ねた上で検討が進められました。
北上市との共通認識が、導入に向けた判断材料となったといいます。
「北上市さんとは同じ課題感を持ち、サグリ社を交えて協議を進めてきました」
北上市との三者協議が、花巻市の導入判断を後押ししました。今後については岩手県との連携をより緊密にする意向も示されており、関係構築を進めたい考えが語られました。新たな取り組みでもあり、近隣の協議会や県域で連携することでより高い効果を期待できると考えられます。
導入効果:衛星データとAIが実現する作付け調査の効率化—精度90%の成果
サグリ社による精度説明(水稲類90%・その他80%以上)を踏まえつつ、花巻市ではAI判定と現地確認を併用しながら運用を始めています。
現時点で、花巻市が精度数値を独自に検証したわけではありませんが、「現地確認・地図印刷・移動の負担が減っているという実感はある」としています。
「作業負担が従来より軽くなった印象はありますが、まだ試行段階であり、運用方法を整理しているところです。」と髙橋氏は語ります。
“AIが示す結果を人が検証する流れ”は、花巻市ではまだ確立しているわけではありません。現時点では、AI判定を参考にしつつ、委員による現地確認を併用する形で運用しており、今後の扱いについては「検討が必要」という段階にあります。
今後の展望:AI精度向上とKPI管理で作付け調査を持続的に改善
作付け調査は紙図面と現地確認を前提とした手順が中心であり、その負担の大きさについて、髙橋氏は「現場では本当に大変な作業でした」と語っています。こうした背景もあり、今回、花巻市ではデジタルツールの導入に踏み切りました。今後は新たな技術やツールの運用をどのように定着させ、その効果をどのように最大化していくかが検討事項であるとしています。
現在はAI判定を参考にしながら現地確認を併用する“試行段階”であり、両者をどのように組み合わせていくかは、運用を重ねながら整理していく必要があります。また、解析結果として示される「乖離率 (※)」と現地の状況との関係について、現段階で正式な分析を行っているわけではありませんが、解析結果の扱いや捉え方を含めた運用整備に向けた議論が始まっています。
運用の定着に向けては、職員がAI判定の使い方に慣れていくことが重要であり、髙橋氏も「こういうツールに慣れていく必要がある」と述べています。
花巻市の事例は、地域特有の制約(人手不足・地理条件・制度上の飛行制限)をどう回避し、新たな技術の導入に取り組む自治体DXの実践事例です。国内には、拠点空港と地方管理空港だけでも82の空港があり(令和7年8月1日時点)、花巻市のような制約を抱える地域は少なくありません。そういった地域の参考としては好事例ととらえることができるでしょう。
※デタバにおける衛星データの解析結果(単位:%)。申請作物と現地の状況が異なっている可能性を示すもの。