静岡県が実証する「農地DX」ーアクタバ導入で荒廃農地調査を73%効率化
本記事は、サグリ株式会社が令和7年9月11日にオンライン開催した「農地活用DX」セミナーで紹介した、静岡県内でのDX推進の取り組みをレポートします。
静岡県では、令和6年4月に「静岡県荒廃農地調査DX化推進研究会」(以下、「研究会」)が発足しました。一般社団法人静岡県農業会議が事務局を担い、衛星データとAIを活用した農地パトロールアプリ「アクタバ」について、県内自治体の農業委員会への情報提供や運用支援を行うことで、荒廃農地調査の省力化を目指しています。
その結果、荒廃農地調査を73%効率化したその成果とプロセスを紹介します。

この記事のポイント(まとめ/ダイジェスト)
・静岡県農業会議が県と連携し、「静岡県荒廃農地調査DX化推進研究会」を設立
・農地パトロールアプリ「アクタバ」の導入効果を検証
・導入により、調査業務時間を73%削減(884時間→236時間)したケースも
・契約事務の窓口一元化や運用支援で自治体側の負担を軽減
・機構集積支援事業を活用し、予算確保の助言も
・荒廃農地の「調査」ではなく、「解消」に注力できる体制づくりを目指す
全国の農業委員会では、毎年夏に農地の利用状況調査(農地パトロール)を実施しています。この調査では農地の利用状況を把握し、荒廃農地を特定することで、その解消に向けた取り組みを進めるのが目的です。しかし、従来のルール上では全ての農地を調査する必要があり、地図作成、現地調査、写真整理、結果集計など、多くの労力と時間が必要とされてきました。
静岡県農業会議の角皆氏は、この課題について次のように説明しています。
「利用状況調査では全ての農地を現地確認する必要があり、非常に多くの労力がかかっています。本来の目的は荒廃農地の解消ですが、荒廃農地の発見、その調査をすること自体に非常に多くの手間がかかっているというところがありました。加えて8月頃の夏の厳しい中で調査をすることになり、農業委員会からも様々な要望が上げられていました」
こうした現場の声を受け、静岡県農業会議では県への要望活動の一環として、「農地の利用状況を効率的に把握することで、農地利用調査に一層力を入れていくための調査効率化の支援」について要望を提出しました。
農業会議と県が連携し研究会を設立—DX推進の仕組みづくり
令和5年度、静岡県内において「アクタバ」を5市が先行導入し、荒廃農地調査に活用しました。当該5市の協力を得て実施した導入効果検証の成果を踏まえ、令和6年4月には「静岡県荒廃農地調査DX化推進研究会」が設立されました。

角皆氏は研究会の目的について次のように述べています。
「農業委員会の利用状況調査の業務効率化を目的として、会員と準会員を設けています。会員は『アクタバ』を実際に活用する農業委員会と農業会議、県が入っています。準会員は『アクタバ』に興味はあるけどまだ導入するまでは至っていない委員会や、情報収集で聞きたいという委員会も会議に入れるようにしています」
研究会の活動内容は多岐にわたります。「アクタバ」を利用する農業委員会の分をまとめてサグリ社と契約する窓口となるほか、操作研修会の開催、活用方法などの情報交換会の実施、改善意見の集約、そして複数の農業委員会の参加による利用料の割引交渉なども行っています。
角皆氏は研究会の取り組みについて「農業会議の事務負担は増えますが、農業委員会の実態をより深く知ることができるメリットもあります」と語ります。
「アクタバ」導入で業務時間を73%削減—効果検証の結果
静岡県内のA市(農地面積約1,000ha)を対象として「アクタバ」導入の効果を検証しました。検証ではモデル地区を設定し、その結果を基に、地図の準備から調査結果の取りまとめまでの5段階(表-1)について、導入前後の作業時間を比較することで、導入効果(労力削減効果)を試算しました。
表-1.A市の労力削減効果試算結果

・導入前の作業時間:884時間
・導入後の作業時間:236時間
・削減時間:648時間
・削減率:73%
特に大きな効果があったのは、地図の準備と荒廃農地候補の絞り込み作業でした。従来は紙の地図を準備し、紙ベースでの絞り込み作業を行っていましたが、「アクタバ」ではパソコンの画面上でデジタル地図を確認でき、衛星データの解析結果から現地確認が必要な農地のみを絞り込めるようになりました。
研究会の取り組みとは別でサグリ社の聞き取ったケースではありますが、令和6年度の静岡県袋井市の事例では、農業委員の利用率が100%となり、現地調査の時間が約2ヶ月から約1ヶ月に短縮(50%削減)されたとの報告もあります。
「アクタバ」の実用性を検討するには、AIによる荒廃農地の判定精度も重要な要素です。研究会では市町別に検証を行い、田んぼの場合は約7割の絞り込み精度が確認されました。
茶園にも対応、AI判定精度の向上と継続的な改善の取り組み
令和5年度に研究会で検証を行った当時のことを角皆氏は振り返ります。
「田の場合は約7割が(調査対象の)絞り込みに活用できることが確認されました。一方、茶園について活用できたの約3割にとどまり、課題が残る結果となりました。これは当時、樹木判定という機能があり、樹木に関する農地は一律に耕作放棄地率50%と判定されていたためです。これにより、管理されている茶園と荒廃茶園の両方が同程度の耕作放棄地率となってしまうことがありました」
この課題に対して、研究会としてサグリ社と協力し、茶園の判定精度の検証と向上に取り組みました。その結果、令和6年度には荒廃茶園の87%が高い耕作放棄率として正しく分類されるようになり、精度が向上しています。 一方で、管理されている茶園が高い耕作放棄率と判定されるケースは散見されており、解析アルゴリズムの改善が継続的に進められています。
また、令和7年度からは高分解能衛星画像の実装もなされており、さらなる精度向上が期待されています。

導入を支える予算スキームと運営体制
導入にあたっての予算確保も重要な課題です。研究会では会費制を導入し、農業委員会から会費を徴収する形で運営しています。各農業委員会が「アクタバ」を利用する予算としては、国庫の機構集積支援事業と市町村の単独事業費を活用しています。
静岡県では研究会の会員である県と連携し、この取り組みに活用可能な補助事業等を整理して県内自治体(農業委員会)に対して情報提供及び提案を行うなど、予算確保のサポートをしていることも導入促進の重要な活動と言えます。
スムーズな定着を支えるサポート・研修体制
新たなシステムの導入にあたっては、操作・運用方法の確立も課題となります。この点について、サグリ社は「アクタバの操作は比較的簡単で、一度使っていただければスムーズに入っていただける仕組みとなっています」とコメントします。
また、研究会では操作研修会等を開催することで、サポート体制を強化しています。また、自治体職員の参考情報を提供するために、運用方法についての意見交換などの機会も設けて、導入後の支援を続けています。
ツールやシステムの導入は、ゴールではなくスタートであり、あらゆる道具と同様で”どう使うか”が最も重要な要素のひとつであることを、静岡県荒廃農地調査DX化推進研究会の取り組みは教えてくれています。
さらなる精度向上へ—静岡県DXモデルの展望
「アクタバ」による荒廃農地調査のDX化は、多くのメリットをもたらす一方で、いくつかの課題も残されています。研究会の運営による農業会議の事務負担の増加や、茶園などの永年作物における判定精度の向上において継続的な協働作業が必要となる点が挙げられます。
静岡県での取り組みは、衛星データとAIを活用した「農地DX」の事例として注目すべき先進的な取り組みです。今後は高分解能衛星画像の導入や、中山間地域への適用などについても検討を進められる予定です。